だいぶ御無沙汰してしまった.書く暇がなかったと云うより,書こうとする内容を常に現実が覆いっかぶさってすーっと上書きしていってしまう,そんな日々なのだ.
フランス・カンヌでのMIDEMは例年どおり酒とトークとビジネスにまみれて瞬く間に過ぎ去った.このMIDEM,前述したように音楽業界の祭典なのであるが,僕が参加を初めてはや10回以上(以前は中国返還前の香港で“MIDEM Asia”なるものも開かれていた),最近大きなターニングポイントを迎えたような気がする.そこには二つの要因がある.
ひとつは勿論,ネットの進化だ.いまやMIDEM参加者は事前に全員のメアドが公開されるので,MIDEM開催数ヶ月前からメールを通してほとんどの商談が成立してしまい,カンヌに来てからは皆30分刻みで予約済みのブッキングをひたすら消化するのみだ.これでは偶然の出逢いの愉しみなど望むべくもない.特に予定調和を本能的に愛する日本人は,与えられたスケジュールをこなしたらあとは帰るだけ,といった雰囲気で,現地で出逢う人には警戒心剥き出しといった輩も多い.まぁ語学力の問題もあるのだろうが,(例外的にH社のS氏はとても国際的にオープンで,たいへんお世話になりましたが)
これでは,ただでさえ減少傾向にあったミュージシャンや作曲家本人の参加がどんどん少なくなり,ビジネスマンだけで作品が転がされている(失礼>業界の方々・・・僕は正直者です)印象がぬぐえなくなっているのは僕だけではないようだ.
さらに追い打ちをかけたのは9・11で,こうした大規模な国際的イベントでは当然のようにセキュリティチェックが神経症的に厳しくなった.それはそれで仕方ないことなのだが,問題は,500〜1,000ユーロもの高額な参加費を払えないミュージシャンが,会場周辺をうろついてデモテープを配りまくる,そんな熱心な姿が取締まりによって減りつつあることだ.以前はフランス的寛容さで彼らもこっそり会場に入れてもらえたりしたのだが,今では絶望的.今回も友人のミュージシャンが参加バッジ無しでパリからやって来たのだが,ある日本のレーベルの女の子曰く「正式参加してないミュージシャンの音源は受け取れません.こわいから」と突っぱねた.天にも届く恐ろしいマニュアリズムだ,何が怖いのだろう.CDに超薄型爆弾でも仕込んであると思ったのだろうか・・・.
でもまぁとにもかくにも,トリノオリンピックを上回る90以上の国からの人々が集まっているのである.人間を見ているだけで面白くないわけがない.特にオープニングのカクテルパーティは最高,叫ぶイタリア人,ぺこぺこ何回もお辞儀をしている日本人,その間を飲み物を運んで器用に動き回るドイツ人,チャイナ服に仏頂面だが酔うと気前の良い中国人など,まるで昭和初期の国際会議を描いた風刺画さながらの光景が展開する.よくよく考えれば,世界が,それも民間人がこんな風に集まれるようになったのは歴史上ここ数十年そこそこの話ではないか.
立ちっぱなしでのミーティングの連続に疲れ果てて会場内のカフェに座り,緊急食であるピザと赤ワインを頬ばっていると,向かいにえらく機嫌の悪そうなカナダ人がいた.つぶやいて曰く「ったくどいつもこいつも『最高だ.そして私はとても忙しい』と判で押したような答えばかりしやがる.おいOsamuとやら,こんだけ人が多いんだぜ,そんなに全員がうまく行ってるはずねぇじゃねーか.」
まったくその通りだ.少なくとも「おれは今回は最悪だ.すべてのミーティングが空回りだ」と正直に言う奴にはとんとお目に掛からない.彼は言った「最悪とまではいかないが今回はかなりまずい・・・」
その眠そうなカナダ人(同じ映画作曲家だった)と僕は,疲れにまかせてだらだらと,やがては作曲法の複雑かつパーソナルな話にまで踏み込んでいった.意外なものだ.ねもさと疲れが肩肘の力を取り去り,こんな創造的な話へと導いてくれたのだ.僕がMIDEMに対して求めていたものはこうしたいわば黄金の道草だ.ビジネスの出会いはその後数年続けば良いものがほとんど.しかしこうした作家同士の会話は,いつまでも心の中で反復されていく.ねもさと疲れに感謝.
レベルは違いますが、こういう人間見市のような集まりってヨーロッパだとけっこう日常的な感じですね。
先日、10人分の個室のあるアパートのビルを丸ごと使ったパーティに参加してきました。このウェールズの田舎町じゅうのやつほとんどきたんじゃないか、っていうくらい、いままで見たことない、いろんな人が来ていて、どこかから気持ちよくなる草の香りが漂ってきそうな(漂ってこなかったけど)感じの、私の思う、いかにもヨーロッパらしいパーティでした。
杖ついたお爺さんまでうろうろしてたため、周りの人に尋ねたところ、そのお爺さんはイギリスに移民したポルトガル人で、昔ジャーナリストやってたところにモザンビークで捕まって政治犯としてぶち込まれてたとのこと・・・
こういう人さすがに東京でもみかけないですよね。
Posted by: JUN | Saturday, 18 February 2006 at 03:42
JUNもしばらく会わないうちにすっかりヨーロピアンになっちまいましたなぁ...まぁWhalesがヨーロッパかどうかというのはdisputeでしょうが.
先日はパリにてニアミス失礼(私信).
Posted by: Osamu | Monday, 20 February 2006 at 04:58
それを言い出すと、UK自体がヨーロッパかどうかも怪しいよ。大陸から来る連中はほぼみんな、UKがいかに大陸と異なるか(一杯飲んだときの振る舞い、女性の服装、その他もろもろ)口をそろえて言います。ところで前回はお会いできなくて残念でした(修士課程忙しすぎ!)。
Posted by: JUN | Tuesday, 21 February 2006 at 10:04