旅の愉しみは,お洒落なレストランで優雅に愉しむグルメな料理? いや残念ながらそうではない.そんな金がない,という陳腐な理由だけでなく,僕はもっと楽しい事を知ってしまったからだ.それは土地土地で自ら料理すること.
キッチンのある宿やアパートというのも,丹念に調べてみれば必ず見つかるものだ.最悪,ユースホステルの如く相部屋になったとしても僕は台所を優先する.そこには,世界中からやって来た旅人達の食文化の精神が溢れているのだ,などと言うと聞こえはいいが,つまり残り物を拝借すれば世界が味わえるという訳だ.
以前札幌でとある台所付ゲストハウスに泊まった時,たまたま札幌で世界地震学会とかいうのが開かれており,世界中から集まってきていた地質学者たちと居合わせた.インテリが経済的に恵まれないというのは世界の不条理な条理であるから,彼らは高級ホテルなどではなくそのゲストハウスに蟻ん子のように群がっていたのだが,南アフリカから来たという女性(もちろん日本は初めて)は,札幌風味噌らーめんを見よう見まねで,おどろくほど正確に作ってしまった.恐ろしい適応力だ.それも,買い出しなどせず身近にある食材だけで.麺はパスタだったが,スープの味は正統札幌らーめん,なんとチャーシューまでお手製だった.考えてみれば地質学者なんて言ったらサバイバルにかけては天才みたいな連中だから,砂漠だろうと火山の頂上だろうと六本木だろうと幸せな食生活をてきぱきとやってのけちまうんだろうな,と噴煙のように湧きあがる感動を覚えたものだった.
僕は料理なんて,と思う人ほど試してみることを勧めます.僕も元はといえばこうやってヨーロッパで料理を覚えた.だからうちの母など未だ僕が料理得意だというのを信じていないようだ.決して“上手”じゃないけどさぁ.
今はブダペストの「さくらんぼ社」という宿に居る.もともとは日本とハンガリーの架け橋となるべく努力されている方々で,ついでにゲストハウスも経営して旅行者の面倒を見てくれる殊勝な存在である.ほとんどはリスト音楽院にゆかりのあるスタッフが多く,各部屋にはなんとグランドピアノまであるではないか! 羽根枕に羽布団,そして本題となる,見事にオーガナイズされた使いやすい清潔なキッチンがあって,これで1泊30ユーロ.のんびり料理しながら作曲や編曲をするには最適.まったく涅槃に入っちまったかのような幸せな境地である.
しかしハンガリーもEU加盟で等比級数的なインフレ.さくらんぼ社も大変みたいだ.
これを読んでいてハンガリーや音楽に興味のある人,絶対さくらんぼを無くさないよう御協力をお願いします.かしこ.
今夜のゲストは僕一人.留守番である.電話番も兼ねておる.
台所にてハンガリーのEgriワインを飲みながら.ペペロニとサラミとゴンバスレベシュ(きのこスープ)が美味しうございます.
12/01 @Budapest, Hungary
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