旅の愉しみは八兵衛(@水戸黄門)のように食うことだけではない.音楽をやっているとついつい耳が働いてしまうせいか,乗り物に乗るとあの“アナウンス”というやつが気になって気になって仕方がない.情報の伝え方には,お国柄がある.
たとえばパリのメトロには案内放送が無い.降りる駅は付いてからホームの看板みて探せという,レッセフェール的親切.
逆にスペイン,マドリードの地下鉄は賑やかなことこの上ない.男女が漫才のようにリズミカルに掛け合うのだ.
(男)「次の駅は?」
(女)「ソル(Sol)」
(男)「乗り換えは?」
(女)「○号線,○号線・・・」
という具合.御堂筋線でもパクればいいのに.わざとボケてみたりして(笑)
韓国の急行列車ムグンファ号,それもかなり田舎を走るやつなのだが,韓国語に続いて英語,日本語,中国語(北京語)と実に楽しませてくれた.それも日本語はアニメの声優さんのように妙にハキハキした女の子で,まったく訛りなし.人格の全く見えてこないJRの女声テープよりも断然心地よい.
それに対して東京の関東バス(ワンマン)はなんだ.録音されたテープ(女声)を運転手が流すと,すかさずそれにかぶさるように運転手が喋り出す.二人同時にまったく違う文章で結果的には同じ伝達事項を話しているので,相当耳に神経を集中していないと聞き取れない.すべての運転手がそうしているから,マニュアルにそうあるのかも知れない.「テープでは味気ない」と誰かが投書したのかどうか知らないが,お年寄りの多い東京のバスのこと,誰も聞き取れていないようで,客同士で「野方消防署前はもう過ぎちゃったかねぇ」「この次ですかねぇ.いま放送したと思いますよ」などと言い合っている.
日本の過剰なインストラクション.情報を与えれば与えるほど親切だと思っている.駅の男性用トイレには,便器に「もう1歩前にお進みください」などとある.餓鬼じゃあねえんだから便器との距離の取り方くらい分かってらぁこの野郎.札幌のエレベーターのボタンには,ワープロで打ったらしい案内餓鬼,じゃなかった案内書きがあって,「上階に行かれるときは“上”のボタンを,下階に行かれるときは“下”のボタンを押してください」と御丁寧に教えて下さった.またそれをまともに読んでからおどおどとボタンを押す人が意外に多かったことはもっと大きな衝撃だった.迷っているから読むのではなくて,読むから挙動が遅くなるのである.
自分が外国に行くとよく思うのであるが,外国人や,あるいは耳や目の不自由な人々にとってもそうだろうが,理解できない情報を大量に投げつけられるのは恐怖である.いちおう理解しようと無駄なエネルギーを割く.そのために,その間に出逢うべきだった人生のいろいろな物事,たとえば窓の外に一瞬映った素晴らしい川の景色などを,逃してしまうではないか.
頼むから黙ってやらせてくれませんか.
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