初音ミクをはじめとする"vocaloid"の登場が世を賑わせて久しいが,今年は,また違った意味で「お騒がせ」な音楽ソフトが登場しそうだ.
ドイツ・ミュンヘンを本拠とするCelemony社の"Melodyne"シリーズは,主にヴォーカル等モノフォニックフレーズの音程とタイミングを編集するツールとして比類なきクォリティで定番化している.今年秋に予定されているver.2で,Direct Note Accessという新機能が盛り込まれることとなったのだが・・・
ついに和音がいじれるようになっちゃったのである.オーディオファイルから(MIDIではない)和音の構成音を解析し,表示するとともにその一部だけ音程を変えたりできちゃう.つまりドミソ〜と弾いたピアノをドファラに変換するのも簡単というわけである.それも「高音質で」.
たしかに便利なツールである.しかし曲を作る人間のどれだけがこの機能を必要とするかははなはだ疑問だ.むしろ,作曲家や演奏家よりもDJやポストプロダクションがより一層曲作りの主役になっていく手助けをするだろう.Logicなど各種音楽制作ソフトの英語MLではこのアプリが著作権に与える影響が連日論議されている.たとえばモーツァルトの交響曲を取り込んで一部の音程だけ変換し「自分の曲だ」とJASRACに登録することも原理上できてしまうし,ベートーベンの『運命』の全篇長調化も『ドレミの歌』の全篇短調化(暗ぇ〜)も夢ではない.マイルス・デイビスのレコードからトランペットソロを取り出してチャルメラに変換し,ジングルとしてテレビで流すことだって可能だろう(そして印税を得る).
しかし僕個人としてはDJに恨みがある訳でなし(笑)どんな可能性もテクノロジーも歓迎したいところである.むしろ危惧しているのは,上記MLなどで,これを機に『楽器の弾ける』"organic musician"がコンピューターで音楽制作(録音も含めて)する全ての人に敵意をむき出しにし始めたことだ.「我々こそ本物のミュージシャンだ,おまえらは偽物である」というふうに.
明らかに行きすぎている.一種の原理主義だね.主に40〜50代のアコースティックなギタリスト,パーカッショニストに多い.
本物だろうが偽物だろうが,僕は世界観を提示できるその人固有の曲が作れればいいと思っている.ツールなんてどうでもいい.僕にとっては音符とコードを紙に書くだけでも食っていくつもりでいる.ある人にとってはEQとコンプだろうし,ある人にとってはPCにストックされた数テラバイトのサンプルかも知れないし・・・要するに他人は他人.汝の隣人を赦せよ.
それにしても,昨年出荷された日本の音楽制作ソフトの8割以上が初音だったというのはちょっと悲しいですね.
初音が売れたのが悲しいんじゃなくて,某機関が調べたところ業務スタジオでクラック版の音楽制作ソフトを使用して収入を得ているケースは韓国より中国よりダントツ日本がトップだとか...皆買ってないんですね〜.汝の隣人に憐れみを.
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